熊本にある慈恵医大の「赤ちゃんポスト」に以前伺ったことがあります。というのももう亡くなった方ではありますが、熊本出身の鈴木かつこさんがご存命の頃、もう10年くらい前のことです。鈴木かつこさんの生涯を書いた本「60歳なんて怖くない」を出版した時、私が彼女のインタビューをして、当時6~7本のテープ起こしをして、本に仕上げたことがあります。その本の印税を彼女は熊本の慈恵医大に行き担当者と面会して寄付をされた時付いて行きました。
その時、この様なシステムと言ったら叱られるかもしれませんが、あのポストを鮮明に思い出します。産んでも育てられない母親が、そのポストの籠に入れて去っていく。胸が締め付けられるほどつらい思いをしながらの行為だとはわかり切っていますが、その姿を想像しただけでとても辛い気持ちになったものです。最近盛んにこの赤ちゃんポストの話題がテレビで放映されるので、あの時の事を思い出しました。鈴木かつこさんも最初の男の子を産んだ後、自分で育てられずに、親元へ子供を置いて上京するのですが、戦後間もないころ、女一人で食べていくことは並大抵ではなかった、という事がその本に書いてあります。私はテープ起こしをしながら何度も涙が出て困りました。彼女はその事が一生ついて回ると何度も口にしていました。だから、本が出来その印税の一部を赤ちゃんポストへ寄付したのです。
鈴木かつこさんはすでに亡くなられましたが、心優しい、チャーミングな方でした。私はその頃NYへ行くと必ず彼女のところでご飯をご馳走してもらったものです。焼き鮭や味噌汁ぬか漬など、ここは何処?NYじゃないの?ここまで日本食をご自分で作って食べている人今時珍しい女性でした。旅の間に鮭とや味噌汁が頂けるなんて・・・と。
彼女は「60歳なんて怖くない」を書いて、出版記念のパーティーにも呼んでくださって、熊本八代にも伺いました。その折「赤ちゃんポスト」への慰問をしたのですが、後ろ髪惹かれる思いで行ったのを覚えております。彼女はどうしてもそこへドネーションしたいと・・・長男はその後引き取っていましたが、彼女はあの厳しいNYの不動産業界でも生き残って部屋中に表彰状が飾られていました。あぁぁぁ~懐かしい、もう一度会いたい女性でした。